【身体拘束・高齢者虐待】高齢者の虐待や身体拘束についてひとこと。いや、もっとたくさん

傷ついたぬいぐるみ

ももたん
ももたん

ガクガク、ブルブル😱

ひろさん
ひろさん

毎年、かなりの数の身体拘束や高齢者虐待の報告が上がっているんだ。今日は身体拘束や高齢者虐待について、現状を踏まえて普段思うことをお話ししようと思います。

1:【身体拘束・高齢者虐待】高齢者の虐待や身体拘束についてひとこと。いや、もっとたくさん

頭を怪我したクマのぬいぐるみの写真

近年、高齢者虐待に関するニュースを見たり聞いたりすることが増えてきました。

老々介護による介護疲れからの配偶者の殺人や、子供や孫による虐待。

そしてプロとして関わっている施設職員やホームヘルパーなどによる虐待まで。

いったい日本はどうしてしまったのでしょうか?

私の個人的な意見ですが、原因は日本の高齢化そのものにあり、虐待は私たち人間の弱さが露呈したときに発生するものだと考えています。

知識不足、教育不足、思いやりの欠如、体制の不備、、。

実際に介護を経験したことがない人は色々と言うかもしれません。

でも実際に介護をしたことがある人なら、介護は綺麗ごとでは済まないものであることを実感していると思います。

その中で悩み苦しみ、どうしようもなくなってしまった時に虐待は発生する。

私自身、自分の親を介護している時に以前と全く変わってしまった母に「焦り」「哀しみ」「怒り」「抑うつ」などの感情を持ったことがあります。

プロとして介護現場で働いている時も鳴り止まないナースコールにイラッとしたり、徘徊する高齢者の対応に押し潰されそうになることも多々ありました。

むしろそれが日常茶飯事です。

それでも私の場合、虐待に結びつかなったのは「チームで介護している」ということと「社内の研修」や「東京都の指導」のおかげがあったからだと思います。

もし1人で介護をやっていたら、、。

私だって十分に虐待をした可能性があると思います。

誰しも私のような弱い人ばかりとは思いませんが、でも人間はどこかで必ず限界は来る。

それは病院の看護師さんなども同じ。

虐待は起きる前に多くの人の力で防ぐべきもので、決して1人の人に介護を押し付けるようなことがあってはいけないと思ってこの記事を書いていきます。

このブログが1人でも多くの悩み苦しんでいる介護者(ご家族、プロの介護従事者を含む)の助けになれば幸いですし、「ハピもも」はそのために書いている一面もあります。

虐待は、虐待を受ける高齢者が傷ついているのはもちろんですが、私は介護をしている人が傷ついていることが1番の問題と考えています。

2:高齢者虐待防止法により高齢者虐待に該当するものと、その内容

高齢者虐待防止法に定義される虐待
  1. 身体的虐待
  2. 心理的虐待
  3. 性的虐待
  4. 経済的虐待
  5. 介護・世話の放棄(ネグレクト)

2−1:身体的虐待

叩く、殴る、蹴る、つねるなどの暴力行為。

体にアザなどができるため比較的見つけやすいです。

実際に私が勤務していた施設でも身体的虐待が疑われる事案が発生したことがあります。

また自宅でご家族から身体的虐待を受けていたために緊急措置的に私が勤めていた施設に入居された方も何人かおられます。

(以下に挙げるデータは 厚生労働省ホームページ 平成30年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果より)

実際に養介護施設従事者等による虐待の件数の中では57.5%とワースト1。

施設以外の自宅などでは67.8%とこちらもワースト1となっています。

2−2:心理的虐待

「脅しや侮辱などの言葉や態度、無視、嫌がらせ等によって精神的に苦痛を与えること」というのが心理的虐待の行為です。

しかし実際に私がよく見てきたものは、これらは少なく、むしろ「スピーチロック」というものが非常にたくさんありました。

一見虐待とは思えないような行為ですが、身体拘束に該当し「身体的虐待」と「心理的虐待」の両方に該当するものです。

スピーチロックとは「危ないから家からでちゃダメ!」「転ぶから勝手に立たないで!」など、言葉で高齢者の行動に制限をかけようとするものです。

ぶっちゃけ、初めて「スピーチロック」という言葉を聞くまでは、私自身それらの発言が身体拘束や高齢者虐待に該当するという意識は全くありませんでした。

だって、放っておいたら転んだりして危ないのは確かだし介護現場で働くスタッフの数にも限りはあるわけですし。

しかし2015年くらいからだったと思いますが「スピーチロック」という言葉が社内の研修でも取り上げられるようになりました。

今でも正直、介護職員や看護職員にとっては「○○しちゃダメ」と言うこと自体が身体拘束に当たるのは酷な気がしますが、お年寄りの立場になれば心理的な負担があるのは確かかもしれません。

「あとで一緒に外出に付き添いますのでお待ちいただけますか?」

「あと3分ほどでお部屋までお連れしますのでお待ちいただけますか?」

このように相手にお伺いを立てて対応することがスピーチロックの解決策として挙げられますが、それでも勝手に施設から抜け出そうとしたり勝手に立ち上がろうとするお年寄りは後を断ちません。

別の機会にスピーチロックについては改めてお話ししようと思いますが、今後の高齢者虐待を考える上での大きな課題の一つとなることは間違いなさそうです。

2−3:性的虐待

性的な行為やその強要となりますが、正直ほとんど見たことはありませんし、カンファレンスの議題に上がったこともありません。

事実、施設での虐待の中では5.4%、自宅では0.4%の発生率です。

ただし、少ないからといって意識しなくても良い問題ではありませんので性的虐待もゼロを目指さなければいけません。

介護は居室やお風呂場などの密室で介護サービスが行われることが多いため様々な問題を引き起こしやすいのは確かだと思います。

余談ですが性的な問題に関して言うと、私個人の実体験や感想ですが、介護職員や看護職員がお年寄りから受ける性的被害の方が圧倒的に多いと思います。

私自身お尻を触られたり、「一緒に寝て?」などの言葉を言われたりしたことがありますし、他の職員も被害に遭ったりしていてカンファレンスでもよく話題に上がってくるところです。

その度にご家族に報告はするのですが、一様に驚かれます。

「まさかうちのおじいちゃんが😰」や「うちのおばあちゃんが😱」など。

でも介護現場ではこのようなことも「よくあること」なのです。

2−4:経済的虐待

本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人が希望する金銭の使用を理由なく制限することですが、介護事業者側からはなかなか見えないところです。

しかし、実際にはいろいろな支払いが滞るところから発覚することがあります。

子供が社長を務めている会社が倒産しそうになり親の年金を充てていたという事例もありました。

結局、会社は倒産し親は生活していた施設を退去することに。

あくまでも年金は親の貴重な生活資金ですので、本人の同意なしに勝手に手を付けてはいけません。

ごくごく当たり前のこととは思いますが、子の生活苦から親の年金や財産に無断で手を付けることが時々あります。

介護事業者側でそのことを把握した場合には市区町村の高齢福祉課の窓口や地域包括支援センターに報告し、当該高齢者が認知症の場合は成年後見制度の導入を検討します。

2−5:介護・世話の放棄(ネグレクト)

施設で働いていると家族からネグレクトを受けて、居宅のケアマネジャーさんの紹介で施設に来られる方が時々いらっしゃいます。

また施設では当然介護放棄はありませんが、家族が誰も全く面会に来ない人もいます。

海外や遠方に住んでいるなどの理由があれば仕方ないと思いますが、同じ街に住んでいても面会に来ない場合は年に数回は来て欲しいと思います。

いろいろな事情があるとは思いますが、、。

3:データで見る高齢者虐待の実状

目を覆うクマのぬいぐるみの写真

3−1:厚生労働省のデータより高齢者虐待の実状

まずは実際に年間にどれくらいの件数が虐待と判断されているのか、少し古いですが厚生労働省が発表している数字から見ていきましょう。

決して少なくないことが分かると思います。

裏を返せば、それだけ悩み苦しんでいる介護者が多いということです。

気休めにはならないかもしれませんが、「1人で悩む必要はない」ということが分かってもらえたら幸いです。

実際に国や地方自治体もこの問題を解決すべく様々なサポート体制を築いています。

悩んだら誰かに話すことが大切です。

できれば市区町村の窓口や地域包括支援センターに話すことが大切です。

まさに「話す」=「放す」なのです。

それでも多くの人にとっては介護から逃れられるわけでは無いのですが、苦悩を放す第一歩になるのは確かです。

高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等によるもの
虐待判断件数(注1)相談・通報件数(注2)
平成30年17,24932,231
平成29年17,07830,040

注1:調査対象年度(平成30年4月1日から平成31年3月31日まで)に市町村等が虐待と判断した件数(施設従事者等による虐待においては、都道府県と市町村が共同で調査・判断した事例と、都道府県が直接受理し判断した事例を含む。)

注2:調査対象年度(同上)に市町村が相談・通報を受理した件数

厚生労働省ホームページ 平成30年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果より

介護老人福祉施設など養介護施設または居宅サービス事業など養介護事業の業務に従事する者によるもの
虐待判断件数(注1)相談・通報件数(注2)
平成30年6212,187
平成29年5101,898

注1:調査対象年度(平成30年4月1日から平成31年3月31日まで)に市町村等が虐待と判断した件数(施設従事者等による虐待においては、都道府県と市町村が共同で調査・判断した事例と、都道府県が直接受理し判断した事例を含む。)

注2:調査対象年度(同上)に市町村が相談・通報を受理した件数

厚生労働省ホームページ 平成30年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果より

3−2:施設等での虐待の発生要因

施設などでの虐待の発生要因として最も多いのは「教育・知識・介護技術等に関する問題」が 58.0%。

次いで「職員 のストレスや感情コントロールの問題」24.6%。

ちなみに施設で「教育・知識に関する問題」が取り上げられているのは「身体拘束」の問題と大きく関係しています。

施設では対応するスタッフの数が限られているため、特に夜間などは対応が困難となるケースが多いのです。

その対応として教育不足や知識不足から「安易に身体拘束」を選択していまい、それが結果として身体的虐待となっていることが多くあります。

実際にそれを裏付けるように虐待の発生要因として「人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ」が 10.7%もあります。

3−3:自宅等での虐待の発生要因

自宅などでの虐待の発生要因としては「介護疲れ・介護ストレス」が最も多く25.4%。

次いで「虐待者の障害・疾患」が18.2%になっています。

たとえ介護を始めた頃は普通の精神状態でも、介護の期間が長引いたり、介護する家族へのサポートが少ないと鬱っぽくなってしまうことが多々あります。

育児と違って、お年寄りは成長していきません。

時間の経過とともに自分1人ではできないことが増えていきます。

介護する側も、時間の経過とともに大変になっていきます。

それがお年寄りが亡くなるまで続くのです。

4:介護職員や介護事業者へ、そしてご家族にも身体拘束について

遠くを見るクマのぬいぐるみの写真

意外と知らない人が多いかもしれませんので改めてお伝えします。

虐待や身体拘束は「虐待や身体拘束をしようとする意識があったかどうか?」というのは無関係です。

たとえ「本人のため」という意識があったことでも、客観的に虐待や身体拘束と判断されれば虐待です。

このことは行政が介護事業者に対して行う実地指導や、介護事業者を集めて行う集団指導でも毎回言われているところです。

現場では本当に対応が難しいところですが、対応困難な人に対して薬で活力を落としてしまうことも身体拘束に該当します。

以下に厚生労働省が定める身体拘束に該当するものを挙げます。

これらは「本人のため」と思って行ったことでも虐待や身体拘束に該当するので行わないように常に意識しましょう。

身体拘束にあたる例
  1. 歩き回らないようにベットや車椅子に胴や手足をひもなどで縛り、歩けなくする。
  2. ベットなどから転落しないようにベットに胴や手足をひもなどで縛り、動けなくする
  3. ベットの周囲を柵などで完全に囲んだり、高い柵を使用するなどして自分では降りられないようにする。
  4. 点滴や、鼻やおなかなどにつける栄養補給のチューブなど治療のための器材を自分で抜かないように、手足を縛ってしまう。
  5. 点滴や、鼻やおなかなどにつける栄養補給のチューブなど治療のための器材を自分で抜かないように、あるいは皮膚をかきむしらないように、指を思うように動かせなくするミトン型の手袋などを使う。
  6. 車椅子やいすなどからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型の専用ベルト、腰ベルト(紐)などで車椅子・椅子に縛りつけたり、胴にぴったりと密着するテーブルをつけて立ち上がれないようにしてしまう。
  7. 立ち上がる能力のある人を、座面を大きく傾かせたりする椅子に座らせるなどして立ち上れないようにする。
  8. 服を自分で脱いでしまったり、おむつをはずしたりしてしまう人に、介護衣(つなぎ)とよばれるような、自分では脱ぎ着ができない特殊な服を着させる。
  9. 他の人に迷惑をかけないように、ベットなどに胴や手足をひもなどで縛る。
  10. 興奮したり、穏やかでなくなったりした人を落ち着かせるために、鎮静させる効果がある精神に作用する薬(向精神薬)を過剰に使って動けないようにしてしまう。
  11. 鍵をかけるなどして自分では開けられないような部屋に閉じこめる。

「身体拘束ゼロへの手引き」(平成13年3月:厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」発行)

5:まとめ。高齢者虐待を防ぐには決して1人で関わらないこと

手を取り合う写真

結論から言うと、高齢者虐待は問題を1人で抱えているときに発生します。

複数の人の目が届いている時は発生しにくくなっています。

先日、1人で祖母の世話をしていた20代の女性が祖母を殺めた事件がありました。

本当に悲しかったことは、その女の子が1人で祖母のケアをしていたこと。

報道による情報なので本当のところはわかりませんが、祖母から孫に対して酷い仕打ちもあったとか、、。

1人でケアできるほど高齢者介護は簡単なものではありません。

批判を覚悟で言いますが、1人の高齢者が亡くなった時、実際に介護をしてきた家族ほどホッとするものです。もちろん亡くなった悲しみはありますが、、。

虐待を防止するためには病気や認知症のことについて勉強したり、誰かに相談したり、協力を得たりする必要があります。

しかし、敢えてたった一つに絞って言うとしたら、「決して1人で抱え込まないこと」です。

プロの私でも対応困難事案があれば迷わずに地域包括支援センターに助けを求めます。

市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談することは全く恥ずかしくないことだということを覚えておいてください。

そして、もし1人で問題を抱えて困っている人がいたら、気付いた人が一緒に地域包括支援センターに相談に行ってあげて欲しいと思います。