【相続】人生最後の意思表示。「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」のメリットとデメリット

遺言

1:【相続】人生最後の意思表示。「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」のメリットとデメリット

公正証書遺言を書くイメージ

1−1:有料老人ホームで働いていると分かる、お年寄りの大きな悩み「相続」

「遺言ってどうやって書いたらいいの?」

有料老人ホームで働いていると、いろいろなお年寄りから定期的に受ける質問です。

そんな質問を受けるとその都度、私がファイナンシャルプランナーとして必ずお勧めするのは「公正証書遺言」。

「確実に意思を残したいなら、費用はかかりますが公正証書遺言を作ると良いと思います。公正役場の人が来てくれて一緒に作ってくれるので、確実に意思を残すことができて安心ですよ」

一方、あまりお勧めしないのが「自筆証書遺言」。

自筆証書遺言は記載内容の訂正が厳格で、また表現にも細心の注意が必要なため無効となるリスクがあるためです。

遺言は人生最後の意思表示。

間違いがないようにするのが一番だと思います。

今日はそんな「遺言」についてわかりやすく説明したいと思います。

1−2:とにかく早めに準備する

お元気なうちで時間がたっぷりあれば「自筆証書遺言も可」とは思いますが、有料老人ホームに入居されていて相談に来られる方は残されている時間と体力が少ない方が多い。

公正証書遺言にするにしても、自筆証書遺言にするにしても遺言のことが頭に浮かんだら早めに手をつけるのが絶対に良いと思います。

公正証書遺言を作るのには何度か公証役場の人とのやりとりが必要になるし、自筆証書遺言にしても最後は弁護士さんなどにチェックしてもらうのが望ましいので時間がかかります。

内容にもよると思いますが、経験上、出来上がるまでに最低でも1ヶ月は見積もっていた方がいいでしょう。

私が担当したケースでは有料老人ホームの入居者さんであったためか、実際はもっと時間がかかるケースがほとんどで半年以上かかる場合もありました。

2:公正証書遺言

遺言公正証書のイメージ

2−1:公正証書遺言のメリット

公正証書遺言のメリット

●確実に「有効」な遺言ができる

●出来上がった遺言は公証役場で預かってくれる

●遺言書を開くときに裁判所の検認が不要

公正証書遺言は、公証役場で作成する遺言です。

作成には2名に公証人の立ち合いが必要で、公証人が遺言を残したい人に代わって書面にしてくれます。

そのため手数料と手間はかかりますが、作成された遺言は確実に「有効」になるというメリットがあります。

公正証書遺言であっても、遺言の内容は自分で考えないといけません(当然のことですが😅)。

そのため遺言の下書きなどの準備は自分で行うか、夫婦で話し合って行う必要があります。

そして出来上がった公正証書遺言は、原本を公証役場で預かってくれるというメリットもあります。

亡くなった後でも、家族が公証役場の検索・照会システムで、遺言の有無を確認することもできます。

亡くなったあと、遺言書を開くときに家庭裁判所の検認が要らないのもメリットです。

聞いたことあるかもしれませんが、自筆の遺言書は勝手に開けてはいけないことになっています。

もし勝手に開けてしまった場合は罰金(過料と言います)などの法的なペナルティがあります。

葬儀費用などを故人の資産から支払う場合などは、スムーズに相続手続きができ流のでメリットも大きくなります。

公正証書遺言がおすすめな人

●自分だけで遺言を作るには不安がある人

●確実に遺言書を「有効」にしたい人(紛失や変造の不安がある人)

●体が不自由でサポートが必要な人(←有料老人ホームでおすすめしていた理由の一つはココ)

●相続人同士が揉めそうな人(揉めそうでなくても不安がある場合)

●法定相続人以外に財産を分ける人がいる人

2−2:公正証書遺言のデメリット

お金を数えるイメージ
公正証書遺言のデメリット

●費用がかかる

●証人の立ち合いが必要

「証人の立ち合いが必要」というのはデメリットにはならない人も多くいると思います。

問題は費用。いくらかかるのでしょうか?

公証人手数料と遺言手数料、出張費、往復の交通費、用紙代が必要です。

<公証人手数料、出張費、往復の交通費>

目的財産の額手数料
100万円まで5000円
200万円まで7000円
500万円まで11,000円
1000万円まで17,000円
3000万円まで23,000円
5000万円まで29,000円
1億円まで43,000円

1億円を超え、3億円まで5,000万円ごとに1万3,000円が加算。

3億円を超え、10億円まで5,000万円ごとに1万1,000円が加算。

10億円を超えた場合、5,000万円ごとに8,000円が加算されます。

私のご利用者さんのように施設まで来てもらう場合は、出張料(4時間まで10,000円、4時間を超えると20,000円)と往復の交通費が別途必要な上、公証人手数料が1.5倍になります。

<遺言手数料>

財産が1億円未満の場合は、11,000円が加算。

<用紙代>

3,000円程度。

3:自筆証書遺言

3−1:自筆証書遺言のメリット

自筆証書遺言のメリット

●公正証書遺言ほど費用がかからない

●好きなときに書ける

●2020年7月10日より法務局で遺言を管理してもらえるようになった

自筆証書遺言とは、文字通り自筆で書く遺言です。

しかし2020年7月10日から画期的な法律が施行されました。

さらっと書きましたが2020年7月10日から、自筆証書遺言の保管が法務局でできるようになりました!法務局における遺言書の保管等に関する法律

これはデカイ!!

今までは自筆証書遺言は信託銀行に預けたりするのが一般的で、預けるのに数万円から十数万円以上かかっていましたが今回の「自筆証書遺言書保管制度」を利用すると3,900円で遺言書を法務局に預けることができるようになりました。

これにより、それまで自筆証書遺言のリスクとされてきた紛失、改ざんが防げるようになったり、死亡した後に残された家族が遺言書の閲覧や証明書の交付請求ができるようになりました。

下の表はその時の手数料です。

申請・請求の種別手数料
遺言書の保管の申請3,900円
遺言書の閲覧の請求(モニター)1,400円
遺言書の閲覧の請求(原本)1,700円
遺言書情報証明書の交付請求1,400円
遺言書保管事実証明書の交付請求800円
申請書等・撤回書等の閲覧の請求1,700円

そのほかにもメリットをお伝えすると「公正証書遺言のような費用がかからない」ことと、「好きなときに書ける」というのが挙げられます。

3−2:自筆証書遺言のデメリット

自筆証書遺言のデメリット

●自分で書かないといけない(参考:公正証書遺言は公証人が書いてくれる)

●記載内容に不備があると遺言が「無効」になるリスクがある

●法務局での保管依頼の申請は本人が法務局まで行かないといけない

もし「自宅は長女に委ねます」と書いてあった場合、自宅を長女に相続させるのか、長女に家を守って(管理して)もらうのか判断がつきません。

当然本人は死んでしまっているので意思も確認できず、残された家族は困ってしまうことになります。

正直言うと、私は自筆証書遺言は勧めたことはありません。

「このような遺言の方法もありますけど、万一の場合、間違えたり解釈をめぐってお子様たちの間で余計な争いになるのでおすすめしません」とハッキリと言っていました。

法務局における自筆証書遺言保管制度を利用する際、申請は必ず本人が顔写真付きの身分証明書を持って出頭して行う必要があるというルールがあります。

「なりすまし」を防ぐためですね。

公証人が出張してくれる公正証書遺言のようにはいかないのがデメリットであるとも言えます。

4:まとめ

希望のイメージ

お元気な人で判断力や法律関係の書類作成にも長けている方であれば自筆証書遺言は、費用も安く好きなときに自由に作成できるのでおすすめです。

しかしお年を召してこれから遺言の作成を始めようと思う方や、体が不自由な方であれば、費用面のデメリットを考慮しても公正証書遺言の方が良いと思います。

遺言は人生最後の意思表示。

その意思表示がなされるのは死後になりますので、間違いがあっても訂正や弁明、説明を加えることができません。

そのため最も大切なことは「確実に意思を伝えることができる」というところだと思います。

そういった意味でも私は公正証書遺言を強くおすすめします。